ニュー・アース
エックハルト・トール 著/吉田利子 訳
人類の機能不全であり集団的狂気、それが「エゴ」。
人類の歴史は大まかにいえば狂気の歴史なのである。
・・・と言い切って始まるこの本は、全米580万部突破のベストセラーであり、
世界37カ国で翻訳されているそうです。
私がこの半年に読んだ本の中では、個人的にNo.1のお気に入り本なので、いつか紹介したいと思っていました。
表紙を見ただけだと、ありがちな精神世界系とかちょっと眉唾アセンション本みたいにも見えるので、敬遠する人は最初から敬遠する類いかもしれませんが、ちょっとそれにはもったいない。
訳の力も相まって、かなり品格の高いマトモな本です。
でなきゃ上記の数字は出ないでしょうね、たぶん。
暴力、破壊、戦争、宗教闘争、人種差別、憎悪、搾取、虐待・・・・
挙げればキリがなく。
「人類は地球のガン細胞である」なんていう有名な言葉もあったりするくらいで、
歴史的・世界的レベルから、日常的・個人的なレベルまで、
「なんで人間てこうなのよ、もう、、、」と
多くの人がほとほと嫌になる時があるんじゃないでしょうか。
この本では、そのような不幸は、人間全員が普通に持つ「エゴ」という精神構造が引き起こしている、といいます。
「エゴ」の構造とメカニズムを解き明かし、それが色々なレベルにおいてどのような不幸を生み出してきたのか、という明晰な論考にはたいへん納得です。
特に、人間の無意識にある「過去の、古い感情的な苦痛の集積」を「ペインボディ」と名付けたのは秀逸。
例えば、あるささいな事がきっかけで突然激しい感情が引き出され、怒りだしたり性格が激変したりする人がいます。
そういう状態を「ペインボディが活性化する」あるいは「ペインボディに乗っ取られる」という。
この考え方を持っていると、他人がそういう状態になっている時に
「ああ、今怒鳴ってるのはこの人のペインボディだな」と受け止める事ができ、
こちらのペインボディまで触発されて闘い始めるのを回避することができる。
さらには、自分自身のペインボディに気がついていくことで、自分がペインボディに乗っ取られる事なく、それから解放されていくことができる。
たいへんすばらしい不幸の回避の仕方じゃないかと思います。
さらには、中東問題や人種問題などを、国家的・人類的なペインボディの問題として考察されると、新たな目で歴史や世界を感じる事ができるような気がします。
本書後半では、じゃあどうしたらペインボディ/エゴとの同一化から解放され自由になれるか、ということに論が移りますが、ここから先は、はっきり言って「悟り」の世界。
「今に生きる」という、著者が実際に体験しているだろう「状態」が、様々に言葉を尽くして語られていて、本当に一生懸命伝えようとしているということはよくわかる。
しかし、禅で「不立文字(ふりゅうもんじ)」と言われるように、こういうことはきっと、それぞれの人が体験した分しかわからない領域になってくるのだと思うので、
「うん、わかるような気がする、けどわかりそうでわからない。」
「そうなれたらいいね〜」
「でも、実際なかなかね〜」
というような、もや〜んとした感じで終わる人も、私を含めて多いかもしれません。
でも、、
エゴの構造を知って自覚的になるだけでも、
「今に生きる」を折に触れて思い出すだけでも、十分有意義なんじゃないでしょうか。
そこから先はまたそれぞれの探求、でしょうかね。
最後に、
このような本が、いわばエゴを究極まで追求して発展したような国・アメリカで書かれ、
それがこれほど多数の人に読まれているというその事実が、たいへん面白いです。
そのような国だからこそ、経験する痛みも深く、
「なんとかしなくちゃ」と思う人達もたくさん出てくるのかもしれません。