音楽療法の実習として、時々病院や施設に行っています。
先日、「次回やる曲」として先輩からもらった曲目の中に
「同期の桜」がありました。
お〜、バリバリ軍歌じゃないの!? こういうのやっていいんだ!?
と一瞬思ったものの、実際は私、最初の一節しか知らず、
全部をちゃんと聴いたこともなかったので、譜面を引っ張り出し、
そして、こういう時にありがたや、 YouTube であらためて聴いてみたのでした。
そしたらねー、いい歌だったのねー。
「軍国主義はカンベンよ〜」とイメージで反射的に捉えていたのが裏切られるような
実は切なく心情が伝わる、よくできた歌詞だということがわかりました。
それを乗せるメロディーも、実によく練られた、凛とした構成。プロの仕事。
こういう時にすぐ分析しちゃうのが職業病なんですが・・・。
音楽的なことに興味のある方はちょっとおつきあい下さい。
ない方は、別エントリーの「同期の桜」はいい歌だった/歌詞編 をどうぞ(^^)
ワザありのメロディー
4小節を1段落とすると、全部で16小節なので、4段落の曲ということになります。
ちょうど一つづつ、起承転結にあてはめることができてわかりやすい曲です。
最初の段落「貴様と俺とは同期の桜」をAとします。
「起承転結」でいうならこれは「起」にあたります。
このAの音型(モチーフ)が非常に重要になります。下の譜例1。
1小節目が「ラ・レ・ファ・ラ・レ」という分散和音になっていること
2小節目が「シ♭〜〜ラ〜〜」であること、もチェックです。
音符が苦手な方も、「全体のカタチ」だけ気にとめてみて下さい。
譜例1(A)
次に、Aを引き継いでまとめて完全終止(主和音で落ち着いて終わる)する
「同じ兵学校の庭に咲く」が来ます。
Aとは別種のメロディーなのでB、としましょうか。これは「承」といえます。
ここで一旦前半が終わる、と。
次の「咲いた花なら散るのは覚悟」
ここのメロディーは、Aの音型を、主和音Dマイナーの4度上の和音である
Gマイナーというコード上で変奏するところから始まっているのです。
譜例2(C(Aの模倣))
1小節目の分散和音は音が変わっていますが、レに向かって上がっていくことと、
2小節目の「シ♭〜〜ラ〜〜」は一緒。
譜例1とカタチがほぼ同じなのがわかるでしょうか。
にもかかわらず、ついている和音の質が違うので、
ここでグッと盛り上がりに向かう気配、みたいなものが感じられます。
これを受けて「散るのは覚悟」で感情の高まり=ヤマ場を迎えます。
まさに「転」の段落ですね。
ここは、Aを模倣しているけれども質の違うメロディーなので
C(Aの模倣)としておきましょう。これはワザありだな!と思うところです。
ここで半終止(続く感じでひと呼吸)、結論へ続きます。
さて、最後の段落「みごと散りましょ、国のため」
ここでまた冒頭Aと全く同じ1小節(ラ・レ・ファ・ラ・レという分散和音)
がやってきます。なので、ここはA’(ダッシュ)として妥当でしょう。
譜例3(A’)
つまり、この曲の構成としては
A ー B ー C(Aの模倣)ー A’ ということになり、
A・C・A’ (譜例1・2・3)がほぼ同じ音型でできていることが
おわかりになるかと思います。
「上がる音程」でヤマ場ができる
さらにワザありポイントは2小節目。再び先ほどの譜例ですが
AとC(Aの模倣)は「シ♭〜〜ラ〜〜」と緩やかに下がって(下例)
A
C(Aの模倣)
自然に落ち着いてゆく感じですが、
最後のA’は
「シ♭〜ラレ〜〜」と上がっている!
A’
音楽的には、音程が上がるということは感情の高まりであるとされています。
ここで最後のヤマが作られているわけですね。
同じと感じさせつつ、最後でひねる。
編曲のバージョンによりますが、ここにつけられたG♯ディミニッシュという和音も
最後のヤマに相応しく、悲壮感と切なさを増幅して秀逸です。
そして、「く〜に〜の〜た〜め〜」と起伏をつけたメロディーで締めくくり
みごとな「結」となっています。
このように、同じ音型(モチーフ)を変形して登場させるということで、
秩序立った構成感と、曲のアイデンティティーをハッキリ出しつつ、
要所でそれを変形して、相応しい感情を導いていくという
作曲技法的には優等生のような出来。
まあ、そんな理屈っぽいことはさておき、実際歌ってみればわかることでしょう。
何ともいえない気持ちのよい思いで歌えたり
ググっと思いがこみあげたりするとすれば、
そういう術のおかげでもあるのです。
さて、次は歌詞について、改めて書きたいと思います。
別エントリー「同期の桜」はいい歌だった/歌詞編
聴いてみたい方はこちら YouTube 同期の桜
(歌詞全編はこちらのサイトを参照ください)