「プロ」としてのあり方
会社をやめて独立する・フリーになって仕事をする、という道を選ぶ人も最近増えてきました。
ネットが発達している今は、昔に比べたらずいぶんとそのような仕事がしやすくなっているかもしれません。
個人で仕事をする上では「プロとしてのあり方=プロ意識」を持つことが必須となります。
で、このプロ意識のあり方について、フリー歴20数年の私は色々と考えるところがあります。
私は大学卒業以来一度も会社に所属することなく、フリーの音楽家としてピアノ演奏やアレンジや作曲をやって生活してきました。
その中で、たくさんのミュージシャンやエンジニア、役者や舞台スタッフといった方たちのプロの仕事に触れる機会がありました。
そんな経験から、「上質なプロとは何か」ということを自分なりに肌身に染みて感じることがあるので、今日はそんなお話をしてみたいと思います。
初期のプロが陥りやすい、受け身と服従の罠
さて、プロとして仕事をするということは当然、お客様からの依頼を受けることが前提になります。
まずは仕事を頼まれなければ、仕事にならない・・・つまり1円も入らないわけですから、どうしても、特に駆け出しのころは「仕事をもらう」という感覚がついてまわります。
もちろん、私もそうでした。
「仕事こないかなー」
「仕事くれるかなー」
「仕事とれるようにアピールしなきゃ」
「やったー、仕事入った!」
というかんじ。
音楽の世界では「仕事をくれる人」というのは音楽事務所や会社、あるいはご縁のあるミュージシャンとかだったりしますから、まさに「仕事をもらう」という意識になっても当然でした。
仕事をもらえるように、仕事を頼まれるように、「これができます!あれもできます!こんなこともやります!」とアピールすること。
そのためにプロフィール・宣材・デモ音源・・・といったものを充実させようとするわけです。
で、仕事きた!依頼された!ゲットした!
もちろん、がんばります。
依頼どおりに、あるいは依頼されている期待の範囲をさらに超えられるように
そして、気に入ってもらえて、また頼んでもらえるように、がんばって成果出す。
これは仕事に向かう姿勢として健全なことですし、何もおかしなところはありません。
でもね。
この段階でうっかり陥りやすい罠もあるのです。
あまりにも「もらう」という姿勢や「頼まれる」という意識が強くなってしまうこと。
つまり、頼まれ、請け負う仕事であるがゆえに、親切や誠意のつもりで過度に受け身になってしまうことです。
仮にこの受け身の姿勢がはなはだしくなるとどうなるか、ちょっとシミュレーションしてみましょう。
受け身型クリエイターAさんの場合
仮に、若手クリエイターのAさんということにしましょう。
Aさんは、実力もやる気もあるし、前向きにがんばれる人です。
人に気に入られやすい謙虚さもあります。
でもそのやる気と謙虚さが、この段階では無意識に受け身の姿勢をとらせてしまっています。
Aさんは、まずは自分のアピールが先立ちます。
A「これができます!あれもできます!こんなこともやります!これもOKです!仕事ください!よろしくお願いします!」
そして仕事を頼まれたら、「頼まれている」という意識から相手の指示を過剰にあおぎます。
A「どうすればいいですか?こうですか?どんなかんじですか?これでいいですか?こっちはどうしますか?ここはこうですね。了解しました。そうします。これでOKですか?」
でね。こういうAさんが、たとえば依頼者からこう言われたとします。
依「えーっと・・・ここはこういうかんじより、もう少しこういうふうにしてほしいんですが。」
そうしますとね、Aさんの場合、おそらくこんなかんじになります。
A「アレ、違いましたか。じゃあどうすればいいですか?ここをこうですか?ハイ、わかりました。ここをこうしました。これでどうでしょうか?・・・え?まだ違う?(だってさっきココをこうしてって言ったから、そうしたでしょーが!)ここをこうですよね。はい、そうしました。じゃあこれでどうですか?」
依「う、う〜ん、そうですねえ。。。」
おそらく、このケースで最終的にお互いの満足いく結果にはならないでしょうねえ。
なぜなら、Aさんは相手に「頼まれた通り」に・・・つまり「相手の言うこと」に額面どおり従ってやろうとしているからです。
「どうすればいいか。こうすればいいか。」と、ね。
根本的な「相手の意図するところ」を汲もうとしているのではないことにお気づきでしょうか。
Aさんが聞きたがっているのは「どうすればいいか?何をすればいいか?」という、やることに対する指示です。
相手の指示に従えば、相手が満足するものができるのだ、と信じています。
これが過剰な受け身であり、極端にいえば「服従」になってしまっているともいえるのです。
でもねえ、実はこれだとあんまりいい仕事にならないんですよ〜。
ここ、私もなかなかわからなかったなあ!
今だから私もわかりますが、こういう仕事の受け方をされると依頼する方としてはあんまりうれしくないんです。
安心してプロに任せたというかんじがしません。
なぜなら、依頼者がかならずしも正しい指示を出せるとは限らないからであり、ぶっちゃけ、依頼者はそこまでよくわからないからです。
依頼者がうれしいのは、何かというと・・・
積極的な 提案 です。
さて、それはどういうことか。
上質なプロは「提案」する
だいたいの場合、依頼者というのは、そのことに関しては素人です。
自分が素人だからこそ、その道のプロに頼むわけですよね。
だから基本的に依頼者は、知識も技術も方法も知らないわけですよ。
けれど、確実に何か
「こういうものがほしい」という最終的なイメージがあり
「なぜそういうものがほしいのか」という理由と背景があり
「それによって、こういうものを伝えたい」という願望があります。
依頼者がはっきりとわかっているのは、まさにそこ。
「作る理由」と「結果の姿」なんです。で、そこしかないわけです。
逆に、依頼者がわからないのは
「どうやったら、そういうものができるのか」
「何をしたらそういう姿になるのか」
「どういう表現をしたらそれが伝わるのか」
ということです。
それはまさに「やり方」。
依頼者はやり方はわかりません。当然です、素人ですから。
だからこそ「それをプロにやってほしい」と頼むわけです。
ですから、依頼者の意図を汲んで、そのための「やり方」を提案するのが上質なプロです。
なので、上質なプロはこんなふうに対応します。
仮に、ベテランクリエイターのBさんとしましょう。
Bさんも、もちろん自分のことを知ってもらう活動はしますが、Aさんとはちょっと違います。
B「自分はこれまではこういうものを多くやってきました。特にこういう世界観や、こういう傾向のものが得意です。お役に立てそうでしょうか。」
やみくもに「ください!よろしく!」ではなく、自分が提供できるものは何か、貢献できることは何か、という姿勢があります。
そして仕事を頼まれたら、まずは相手がどんなものをイメージしているのか、どちらの方向性を望んでいるのか、なぜそれを望んでいるのか、といった大きな背景とイメージを深く理解しようとします。
そして、きっとこんなふうに言うかもしれません。
B「それだったら、こういうかんじでやってみるのはどうでしょう。ここをこうするとこんな効果があるので、イメージに近づきますよ。あるいは、こういうやり方をして、こういうふうにすることもできます。そうするとこんな風に仕上がりますが、どちらがいいですか?」
依頼者「ほう、なるほど〜。うん、こっちがいいかな。じゃあこれでお願いします。」
ほら、安心して任せられるかんじでしょう。
こういうBさんに、例えば依頼者がもう少し注文したいとします。
依「えーっと・・・ここはこういうかんじより、もう少しこういうふうにしてほしいんですが。」
B「ふむ・・・ということは、これだとちょっと重すぎるってかんじでしょうかね。」
依「あ、そうそう、そうなんです・・・もうちょっと軽くふんわりしたかんじがいいかなあ。」
B「わかりました。じゃあ軽めにふんわりしてみますね。こんなのはどうですか?」
なーんてかんじで、つまり先ほどのAさんと何が違うかというと、依頼者がいったい何を感じて何を求めてそれを言っているのか、という「言葉の奥」をつかもうとしていることです。
依頼者は素人さんですから、出てきた現状に対して「これではイメージが違う」ということはわかっても、その違うことに対して「ではどうしたらイメージ通りになるか」という処方箋は持ってないんです。
でも依頼者自身はそれを自覚できずに、あるいは伝えきれずに、なんとなく「こういうふうにして」と言ってしまうこともよくあります。
でもそれはあくまでもイメージを言っているわけで、やり方のことではないのですね。
それを額面通り受け取って、言葉に従おうとしてしまったのがAさん。
結果として相手の言葉尻に振り回されて右往左往してしまいます。
言葉にとらわれずに、依頼者が何を感じ取って言っているのかを読もうとした、そして、そのための処方箋(どうしたらそうなるかという「やり方」)を提案したのがBさん、というわけです。
結果として相手の望む「目的」に到達する可能性が高まります。
こういうのが、上質なプロの仕事だよなーって、私は思うんです。
プロへの上手な依頼のしかた
実際、私が過去、録音をお願いした一流のスタジオミュージシャンの方々は、皆さん驚くべき理解力と、柔軟性と、引き出しの多様性で、そのような提案をしながら良いテイクを残していってくださいました。
そんな方達に、私も譜面や言葉で一生懸命イメージを伝え、プロの技で形にしてもらっていく作業は、スリリングでありながらワクワクするものがありました。
そういう方達に依頼する側としての、良い結果につながるお願いの仕方というのは、まずは「こういう感じにしたいんです」というイメージや、最終的なゴールの姿を伝えることです。
それが伝わった上で、こちらの「こうしてください」という方法の指示に同意納得してくれたら、プロは全力でそのようにしてくれます。
あるいは、その目的のためにこちらの指示したことよりももっと良い方法があれば「こういうふうにするともっとこうなりますよ」と提案してくれます。
もしも出てきた結果にこちらが何か違和感を感じたら「現状だとこういうふうに感じるんですが、もうちょっとこんなかんじにしたいです。」と言って、そのためにどうするかはプロに提案してもらうことです。
そうやって提案してもらったものを判断するのは、こちらの仕事です。
プロはお客さんを太っ腹に背負う
日常的にわかりやすい具体例をもう一つ。
私がそういうことを感じるようになった一つのきっかけは、美容院です。
これまでいろんな美容院でいろんな方にカットしてもらいましたが、時にはキャリアの浅い若い美容師さんにあたったこともありました。
そういう時、私が困っちゃったのは
「どういうふうにしたらいいですか。ここは短くしますか?前髪はどのくらい?後ろはどうしますか?バランスはこんなかんじでいいですか?」
とか聞かれることでした。
だって、わかんないもん。。。はっきり言って「私に指示をもとめないで〜〜」と思いました。
美容に詳しい人なら色々「あーして、こーして」と注文もあるかもしれませんが、私なんか、技術的なことも、どこが短くてどこが長いとカッコいいのかとかも全然わかんないし。
芸能人の誰々みたいにしてくださいとかもないし、むしろ何でもいいから自分に似合ってカッコよくしてくれればありがたい、っていう超おおざっぱなお客さんなので。
そういう私にとっては、ご自身で提案して適当にやってくれる方がホントありがたいのです。
いう方は、オーナーとか店長さんクラスですねえ。
やっぱりプロ意識を持って責任背負ってる人は、依頼者(お客さん)のことも太っ腹に背負ってくれます。
「こんなことしたら嫌われるかな。これは正解?不正解?」みたいにビクビクしていません。
「こうしたらいいですよ!これはどうです?」って堂々と言えちゃいます。
自分の感覚と技術を信じています。
お客さんに「それは違う」といわれたら「じゃあこれはどう?」と言える器と引き出しを持っています。
そういう姿勢に、私は信頼感を感じますねー。
もちろん美容院だけに限らず、そして音楽だけに限らず、あらゆる分野においてこれはいえることではないかと思います。
そういうプロに私はお任せしたいと思うし
そういうプロと一緒に仕事をさせていただきたいと思うし
なにより自分自身、そういうプロでありたいと願います。
受け身と服従から脱出すること。
大きな意図を汲んで、提案。
当たり前のようですが、
これが信頼できるプロの姿勢ではないかと思います。