聞けない「上の人」と言えない「下の人」

この記事の要点
多くの人が自分の意見や気持ちを言えない理由は、「相手がどうせ聞いてくれない」と思うためです。
「聞けない⇄言えない」という問題は、上下の立場や力関係の中でよく起こります。
上司と部下、先輩と後輩、夫と妻、親と子供などの関係では、上の人が話を聞けない傾向があり、下の人は言いたいことを言えずに悩むことが多いです。
しかし「上」の側が怖れから自由になって自己受容ができれば、どんな感情があっても相手の話を受け止めることができ、コミュニケーションが豊かになります。
そのため、まずは上の人、つまりリーダーが自己受容し、ビリーフを外し、「怖れ」から脱却することが鍵であり、リーダーが心を学んであり方を整えることが重要です。

「言えない、言えない」があふれている

私はこれまでたくさんの皆さんのお話を聞いてきて、本当によく聞く声の一つとして

「言えない」

というのがあるなーと実感しています。

つまり

言いたいことがあっても言えない。

あの人には言えない。

とてもじゃないけど怖くて言えない。

どうせ言っても無理だから言えない。

どうせ無駄だからもう言う気にもならない。

などなど。

 

ほんと、みんな「言えない、言えない」言ってます。

そう言って黙って我慢、我慢、また我慢。

 

なんで言えないのかって言ったら、その言いたい相手というのが「どうせ聞いてくれない」から。

というのがほとんどの人の言い分。

 

それはもう、実際誰に言ってみた、何回言ってみた、そのうち何回無理だった・・・という統計的な問題じゃなくて、それ以前に、

言ったってどうせ聞いてくれない

という思いを幼い頃から何度も何度もしているがゆえに、その深い傷と共に潜在意識に固着して「ビリーフ化」してるんですね。

 

つまり世の中、それだけたくさんの人が「言っても聞いてくれなかった」という経験を幼い頃からしていることの現れだと思うし

ひっくり返せば、それだけたくさんの人が「人の話を聞けていない、受け止めてない」という事実を物語っていると私は思います。

聞けない⇄言えない は力関係

この「聞けない⇄言えない」の構図。

これはよくみると、立場上の上下や力関係のあるところに顕著に現れることがわかります。

 

・話を聞けない上司と
 言うことを諦めた部下

・話を聞けない先輩と
 言うことを諦めた後輩

・話を聞けない夫と
 言うことを諦めた妻
(夫と妻、逆パターンもあり)

・話を聞けない親と
 言うことを諦めた子供

 

これら全て、立場として

前者は力の強い者
(便宜上「上」としましょうか)

後者は力の弱い者
(便宜上「下」)

ということなんですね。

多くの場合、「上」側になると話を聞けない傾向になるようです。

聞けないとはつまり「受け止められない」と同じ意味です。

相手から何か言われると「構える、ムッとする、力が入る」などのちょっと固まる反応をして、

なんか不快感の一歩手前みたいな、相手からすれば曇ったイヤーな顔をしたように見える。

そしてつい否定したり、すかさず自分の意見をかぶせたり、すぐに指示命令したり、怒ったりしてしまう。

こういう傾向の人が多いのです。

 

そんなふうに「上」が聞けない・受け止められないから、「下」はそんな怖くて嫌な思いをするくらいなら言わない方がマシ!と思って何も言えなくなります。

だから両者はいつも話が通じず、我慢我慢の積み重ね。

そんな状況でお互いに悩んでいるわけです。

怖いから話が聞けない

そうなっちゃうのはなぜなんでしょうか?

それは「怖いから」。

 

「下」の人は怒られるから怖いっていうのはわかりやすいけれど

でも「上」は「上」で、実は怖いんです。

何か言われる、聞かれる、要望される

ということが、微妙に「自分に対する脅威」だと感じてしまう無意識っていうのがあるから。

 

試しに、あなたご自身がなんらか「上」の立場にいる場合を想像してみてください。

職場の上司や先輩としてでもいいし、親としてお子さんに対してを想像してもいいです。

 

自分が何かダメって言われるんじゃないか

わかってない、できてない、って思われるんじゃないか

適切に答えたり、正解を出したりできなかったらどうしよう

相手の要望要求に答えられなくて、相手がガッカリ顔をしたらどうしよう

 

そんな不安を潜在的に持つのが人間です。

なんとなく実感あります?

それが「怖さ」というやつ。

 

しかもそこに、「上」たるもの!というたくさんの「べきねば」(ビリーフ)がついているから。

 

「上」たるもの

できていなければ、わかっていなければ

強くなければ、正しくなければ

尊敬されねば、権威を示さねば

守らねば、導かねば

器が広いと思われねば、さすがと思われねば

そして

間違ってはならない、失敗してはならない

弱さ、未熟さを見せてはならない

などなど。

 

これらの「べきねば」を信じているからこそ、相手から何か言われることで、それが揺らいだり脅かされたりすることが怖いのです。

だって実はご本人だって、それが完璧にできるような完璧な自分じゃないことをわかっているからです。

でもそんなところを見せるわけにはいかない・・(と信じている)

バレたら嫌われたりガッカリされたりする・・・(と信じている)

そんな自分じゃだめ!・・・(と信じている)

 

それが「上」の人が隠し持っている怖さであり、なかなか人の話が聞けない所以です。

 

しかしそんな怖さを自分が持っていることも、なかなか認めることができません。

怖いなんていうのも「弱さ」であり、あってはならないと信じているのですから。

その怖い思いをすることすら、めんどくさい。めんどくさいから不愉快。

それが「あの顔」です、笑。

 

それでつい否定したり、すかさず自分の意見をかぶせたり、すぐに指示命令したり・・・

という行動になってしまうんですね〜。

まずリーダーから「怖さ」の解放へ

もちろんこれは考察の一例です。

全員、全部のケースがそうとは言いませんよ。

でも、これにやられて聞けなくなっている人は本当に多いなと感じます。

(実はもう一つ、日本独特の「目上」に対する昔ながらのオキテ(ビリーフ)に由来する側面も考察できますが、今回は割愛)

 

ということは、その「べきねば」から解放されて「怖さ」がなければ

気軽にニッコリ、力を入れずに

「ん?なあに?」「ふーーんそうかあ、そうなんだねえ。そりゃしんどかったねえ」

なんてノリで話を聞くことができるようになるはずです。

 

本当に「どんな自分でも大丈夫」「どんな感情があってもOK」という自己受容ができていれば、

たとえ相手の話が自分にとって心地よいものではなかったとしても、

その心地よくなさも受容したまま、まずは「相手はそういう思いなんだねえ」という受容ができるのです。

さらに「この対話で受け取るべきものは何か?」という一段大きな視点から、静かな心で話を受け止めることもできるでしょう。

 

そんなあり方で向き合えば、「下」の人もだんだんと

「言っても大丈夫みたい」「大丈夫だった」「わかってもらえた」「言ってよかった」・・・という方向へ変わっていくでしょうし、

それによって場は和やかになり、コミュニケーションが豊かになって、みんなの心が満たされるようになっていくでしょう。

 

そんなふうに私は思うので、「言えない」側がビリーフを外して勇気を持つのも大事だけど、もう一つの側、つまり

親、先生、先輩、上司、取引相手・・・といった立場上「上」の人が

真に自己受容して「怖れ」から自由になることはとても大事だと思っています。

 

やっぱりなんだかんだ、人間は力関係で動く生き物です。

「上」の人次第で、「下」の人は行動します。

 

だったらより影響力が大きい、力の強い側・立場が「上」の側が、心とあり方を整えてビリーフを外し「怖れ」から脱却していくことが先決。

そうしたら「下」の結果は後からついてくるのではないでしょうか。

リーダーが心を学び「あり方」を整えることの意味はそこにあります。

 

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この記事を書いた人

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大塚 あやこ

心理カウンセラー/講師/音楽家
一般社団法人ビリーフリセット協会 代表理事
ビリーフリセット・クリエーションズ株式会社代表取締役
 
東京芸大作曲科卒。演奏家・作編曲家として20年間第一線で活動後、燃え尽き体験をきっかけに人生の転機を経て心理カウンセラーに転身。
悩みの根本原因に素早くアクセスする独自メソッド「ビリーフリセット®」を確立。個人相談から企業研修まで幅広く展開し、協会認定カウンセラーを多数輩出。Udemyオンライン講座「はじめての傾聴」は2万名超の受講者を誇る常時ベストセラー。 心の構造を論理的にモデル化する独自アプローチが、ビジネスパーソンから高い支持を得ている。

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