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お見送りの音楽

 

音楽でお見送りをする仕事

「ミュージック・タナトロジー」という言葉を最近知った。

日本ではまだほとんど聞くことがないが、タナトロジー(thanatology)という言葉単体は「死生学」と訳されてそれなりに研究されているようだ。

ミュージック・タナトロジーというのは、末期医療の現場で、音楽を奏でながら患者さんの心を安らぎに導き、この世からの旅立ちのお見送りをする仕事である。

モンタナ州の病院で活動するハープ奏者、テレーズ・シュレーダー=シェカー が提唱して、アメリカでは何人もの専門家が存在するようだ。

試しに私が Music thanatology でgoogle検索したところ、いくつもの組織や関係者がリストアップされたので、アメリカではかなり着実にそのような仕事が普及しているのではないかと思われた。

Webで見た限り、現在のところそのような場ではハープが使われるのが主流らしい。患者さんのベッドサイドにハープを持ち込み、ゆったりとシンプルな聖歌やバッハのメロディーなどを奏でながら歌う。

患者さんの呼吸と同調するようにするのが重要らしい。

そうすると、患者さんの呼吸が安定し、恐怖や不安を和らげ、深い安らぎがもたらされるのだそうだ。

参考 Youtube:オレゴン州ポートランドでの実践現場レポート/現地ニュース映像

音楽でのお見送りについて書いた英語サイト SACRED FLIGHT 〜About the vigil〜

旅立つ時、どんな音楽がいい?

この世から旅立つ時、どんな音楽がふさわしいのだろうか?

作曲家であり音楽療法の研究者である若尾 裕氏が、著書「奏でることの力」で、そのあたりをたいへんうまく言い表していると思うので、少し抜粋する。

奏でることの力

奏でることの力 若尾 裕・著 春秋社

もし自分が死を迎えることになったら、そのときいったいどんな音楽が聴きたいだろう?いま自分が好きな音楽?いやいやそのときになってみなければわからない。きっとそんなものはいやになっている。
その時流行の最新の音楽?いや、そんな世俗的なものはいやにちがいない。

〜中略〜

それよりきっと誰かに触れられていたい。ひとりぼっちは淋しいばかりでなく恐ろしい。そして、何か、話しかけてほしい。うるさいのはかなわないが、静まり返っているのもやりきれない。
そうだ、小さい声で歌ってほしい。心身ともに疲弊しきっているはずだ。
複雑で美しさを誇るようなものはもう受けつけまい。かといって、低俗なものを死ぬ間際に聴かされるのはごめんだ。
きっと単純でそれでも高貴さをもち、そしてなによりも安心感をあたえてくれる音楽。そんなのがいい。

まさに、私もそう思う。そんな音楽がいい。そして、さらに若尾氏は続ける。

ほとんど普通、音楽と呼ばれるものは、現世の喜びを歌ったものである。
暗い音楽であれ、明るい音楽であれ、音楽は生きる喜びをあたえてくれ、傷ついた心を癒し、元気を取り戻してくれる。
しかしである。死ぬときには、そんなことはしてほしくないはずである。
もう、生きるための励ましなどは要らない。元気にしてくれる努力もご免被りたい。ただ苦しさを分かち合い、何も言わず自分の存在をあるがまま受け入れ、世を去るまでいっしょにいてほしい。
こういうときに必要な音楽は、普段とまるでちがうものだろう。
現世に結びつけている絆をほどき、魂が自由に漂っていける、そういう援助がほしい。

本当にその通りだと思う。
この若尾氏の文がすべてを語っているような気がするので、あえて私が付け加えることはない。

そして、そのような音楽を奏でることに、なぜか惹かれる私がいる。

今すぐできるかどうかはわからない。
でも一生をかけてチャレンジしたい・・・それがこのような「魂のお見送りの音楽」なんだと、私は感じられてならない。

なぜなら、音楽は本質的に、言葉や思考を飛び越えて、魂にダイレクトに届く性質を持つと思うからだ。

昏睡状態や、死を前にした意識状態では、言葉や思考はほぼ使えないチャンネルとなる。しかし命・魂のチャンネルは最後まで残る。

肉体の力、思考の力・・・すべてを一つ一つ手放さざるを得ないその人は、そうやって「ただ魂一つの存在」へと近づいてゆくのではないだろうか。

その時に、どうやってその方に関われるのか。たとえば不安と恐怖に戸惑う魂には、どうしてあげたらいいのか。
その時こそ音楽は、音楽ならではの本来の力を大きく発揮するのではないだろうか。

魂に関われる第三者の存在

キリスト教圏では昔から、臨終の際に牧師さんがベッドサイドに来て、聖書を読んだり祈ったりしながらお見送りするという習慣があったと聞く。

日本でも、いつの時代のことか忘れたけれども、やはり臨終の際にお坊さんが来て「阿弥陀様がちゃんとお迎えに来てくださるから安心するように」と魂を導いてお見送りしていたという話を聞いた記憶がある。

世に多数ある阿弥陀来迎図では、阿弥陀如来の周りに必ず、楽器を奏でる菩薩さん達がいる。あの世へ旅立つ時には音楽が鳴っているらしいのだ。

宗教とはほとんど無縁になった現代の人達にとっても、旅立ちの際にはやはり魂と共にいて、支え、安らぎへと導き、見送る存在が必要かもしれない。

もちろん家族は、共にいる存在として最大ではあるけれども、おそらくさまざまな感情の方が大きくて、そのような役割はそぐわないだろうし、そんなことをしようとする必要もないだろう。

だから、魂に関われる第三者の存在の必要性というのが想定されるわけだけれども、現在のところほとんどの医師にはそのような役割は期待できないだろうし、特定の宗教に関わらない人にとっては、「牧師さんでもないし、お坊さんでもないでしょ」というところもあるだろう。

そんなときに、音楽というのはたいへん可能性がある方法なのではないかと思うのである。つまり「魂に関われる音楽家」という役割の可能性である。

いつか・・・?

日本でもまだ数は少ないけれども、ホスピスなどで末期の方の最後の日々に寄り添ったり、お見送りしたりする音楽療法士の方々がいる。

私は以前、少しだけそのような場でボランティアをさせて頂いて、その重要な働きと音楽の力について、現場から大事なことを学ばせて頂いたような気がする。

よりよく生きるための音楽も、私はもちろんやっていくだろう。

それと同時に、今ではないけれどもたぶんいつか、魂に関わり、魂をお見送りする音楽の仕事も、私はするようになるのではないかと思っている。

それができるだけの人間的な器を深め、磨いていく道のりを歩んでいるのだと思う。

 

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