悲しいときには悲しい音楽

 

何かにつけて「こんな時」です。

音楽の世界でも、「こんな時だからこそ希望を!元気を!励ましを!」

という発想や活動もあるでしょう。でも一方で、

こんな時に「元気!」はちょっとキツイ、という人もいるかもしれません。

 

音楽療法の世界では「同質の原理」という言葉があります。

聴き手の「今の気分」と同じ気分の音楽を聴くことが、気分を落ち着かせる

ということ。つまり

興奮している時には興奮している音楽を聴く

悲しい時には悲しい音楽を聴く

それが気分の落ち着きや安らぎに向かう、というのです。

 

さて、こんな時です。

直接の被災地ではない地域にいても、連日のネガティブ情報の洪水や、

色んなことが不確定に揺れ動く毎日の中で、普通に生活しているつもりでも

小さなダメージや疲れが知らず知らず心に溜まってきているかも・・・と

自分自身、感じる時があります。

「なんとなく疲れちゃったな〜」という人。

そんな時に私だったらこういう音楽がいい、というおすすめをしたいと思います。


ブランフォード・マルサリス カルテット「エターナル」


 

 

 

 

 

 

 

 

トランペットのウィントン・マルサリスのお兄さん、ブランフォードの

美しい音色のソプラノ&テナーサックスで綴られる、静かで穏やかな曲たち。

「バラード集」と言われているけど、バラードという名から連想されるような、

甘くヤワく、ロマンティックなイメージじゃない。

静かに深く哀しく、覚めた諦観の美しさ・・・とでもいうかんじ。

そして、私はここが一番好きなんだけれども

ウルサイ「我」の言い張りがない、というところに、たいへん癒されます。

ジャズという音楽はどうしても、熱く濃く我を張って勝負!みたいな所があるので、

元気な時はそれにつきあって圧倒されたりするのも楽しいかもしれないけれど、

ちょっとカンベンしてよ、という時もあります。

もちろんブランフォードさんも、そういうゴリゴリの演奏だってしますが、

このエターナルにおいては、そういう脂っ気を抜き去って

深い流れに任せているようなところがたいへん素敵。

 

逆に言えば、そういうところがゴリゴリのジャズファンには評判悪いらしく、

Amazonのレビューなんかではけっこう酷いこと書かれたりしていますが、

むしろ、それほどジャズを聴かない人や、ジャズのソコが苦手!という人には

安心して聴ける名盤だと思います。

 

ご本人はこのアルバムのテーマを「メランコリイ(悲哀)」だとはっきり言っています。

そのへんを詳しく書いて下さっている良いコラムがこちらに ↓

YoNakagawa.com ブランフォード・マルサリスがメランコリイを歌った

 

その中からご本人談・抜粋

「そう、 真に男らしくあるためには泣くときだってある。涙を見せない男は、タフであることを装っているに過ぎない。ぼくは、今はハッピーな気分よりメランコリイが 好きなくらいだ。昔は何があってもスマイルを絶やさなかったけれど、それはハッピーである振りをしていただけだった。でも人生は、そんなものじゃない。 ジェットコースターのように、アップもあればダウンもある。メランコリイが、精神のバランスをとってくれるんじゃないだろうか。以前は、ぼくにとって憎む べき対象だった。 でも友人として認めたとき、メランコリイに振り回されることがなくなり、逆にコントロールできるようになった」

 

すばらしいですね。そんなブランフォードさんの人間としての深さと

その音がちゃんとつながっているようで、とても納得できます。

そのアルバム「エターナル」ですが

どうも日本盤も輸入盤も廃盤らしいとか!?

そんなあ〜、こんないい作品がなんで〜・°°・(>_<)・°°・

あとは中古か、あちこちかけずり回って探すしかないかも。

興味のある方はお早めに!(泣)

 

エターナル

 

posted with amazlet
ブランフォード・マルサリス
EMIミュージック・ジャパン (2004-09-08)

 

 

さて、「悲しい時に悲しい音楽」で思い出すこと。

ずっと昔、理由は忘れたけどとっても悲しかった時に

新宿ピットインにライブを見に行ったのでした。

開演前の時間にかかっているBGM、ピアノとサックスだけのデュオだったのですが、

めちゃくちゃ渋くて悲しかった。

「なんて悲しい音楽なんだ〜」とズドーンと重くなって泣きそうになりながら

しかし何か安らいで、惹かれてたまらなくなってしまったのです。

それでお店の人に「今かかってるの何ですか?」と聞いたらこれだったのです。

 

アーチー・シェップ&マル・ウォルドロン

「レフトアローン  Left Alone Revisited」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーチー・シェップはソプラノ&テナーサックスの人、録音時 65歳。

マル・ウォルドロンはピアノの人、録音時 76歳。そしてこれが遺作となっています。

最初から最後まで二人だけのデュオで、月並みな言い方ですが、

めちゃくちゃ枯れてる。悲しい。でもあたたかい。

老人力と言った人もいますが、うーむ、そうとも言えるかも。

確かに技術的にはちょっと・・・というところもあり、巧くも達者でもないです。

実際私は、あるジャズミュージシャンが「あんな恥ずかしい音」と言い捨てたのを

聞いたことがあります。そういうプロの見方もあるかもしれない。

でもね、実際その時の私の心には、これがストーンと入ってきて、

何らかの安らぎをくれたのだから、

何が音楽の価値なのかは、受け取る人と時と場合によると思うのです。

 

そういうわけで、すべての方におすすめはしませんが、

あたたかく悲しみに寄り添ってもらいたい夜なんかには、いいかもしれません。

 

悲しい時には「うん、悲しいねえー。」

疲れちゃった時には「ああ、疲れちゃったねえー。」

そう言って頷いてもらうだけでよかったりすることが、あるものです。

 

 

Left Alone Revisited
Archie Shepp Mal Waldron
Enja (2009-02-10)

この記事を書いた人

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大塚 あやこ

心理カウンセラー/講師/音楽家
一般社団法人ビリーフリセット協会 代表理事
ビリーフリセット・クリエーションズ株式会社代表取締役
 
東京芸大作曲科卒。演奏家・作編曲家として20年間第一線で活動後、燃え尽き体験をきっかけに人生の転機を経て心理カウンセラーに転身。
悩みの根本原因に素早くアクセスする独自メソッド「ビリーフリセット®」を確立。個人相談から企業研修まで幅広く展開し、協会認定カウンセラーを多数輩出。Udemyオンライン講座「はじめての傾聴」は2万名超の受講者を誇る常時ベストセラー。 心の構造を論理的にモデル化する独自アプローチが、ビジネスパーソンから高い支持を得ている。

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