「仏教はインドで生まれたけど、その後ヒンドゥー教が栄えて、現在では発祥の地インドに仏教徒はほとんどいない。」
・・・と、私達は昔どこかで教わった覚えがあり、今でもそう思っている人が少なくないはず。というか、私はこの夏までそうでした。
しかし、そうじゃなかった。
実はインド仏教は着々と復興の道を歩み、仏教徒の数、今や1億5千万人。
そのインド仏教を率いて40余年、さらなる復興に向けて75歳の今もなお、インドの下層民衆と共に闘い続けている日本人僧、それが本書の佐々井秀嶺師です。
どういう経緯でインド仏教が復興の途にあるのか、なぜ下層民衆なのか、なぜ闘いなのか、そのあたりは本書に譲るとして、とにかくその人生の濃いこと、熱いこと。
この方はきっと生まれ持った生命力、生来のエネルギーが尋常でなく強いのかもしれません。
それゆえ、苦しむ時も尋常でない苦しみ方をして、どん底までのたうちまわる。
そして、そこまで苦しんだゆえに、尋常でない「開け方」をする。
その力をもって、尋常でない胆力と行動力で、 尋常でない数の人々を魅了してやまず、 尋常でない大業を成し遂げてしまう。
人にはそれぞれ、その人が生まれ持ったエネルギーと、育ちや環境、経験などから導き出される、その人ならではの「人生の仕事」と「働き場所」と「働き方」があるのだと思います。
それは単純に職種や職場の話ではなくて、人様にとってどういうお役をしているのか、もっと言えば、天に導かれたその人の「役回り」といったもの。
つまり「天命」というものかもしれません。
本書で佐々井師の生い立ちから現在までを通読していくと、いかにもはっきりと天命に導かれ、天命を生きる人生であったことが感じられます。
佐々井師のエネルギー、それは、火、熱、鋼鉄、岩、のようなイメージであり、
突き進む力、地を這う根性、体当たり、裸一貫、打ち立てる、貫き通す、など
非常に動的、剛的、超越的な「陽」の力が輝いているように感じます。
そんなエネルギーのあるこの方だからこそ、その心の柱は「必生」であり、
人生の仕事は社会を動かす「闘い」であり、
その場所は「インド」であり、
その働き方は「坐るより立ち上がる」であったのでしょう。
まさに、この方にしかできない「天命」を生き切っているんだなあと感じます。
そこから語られる一つ一つの言葉は、ずっしりと重く熱い。
教学を語っても、身体で会得した智慧だから非常にわかりやすい。
その言葉に打たれながら読んでいると、だんだん自分のハートの殻がポロポロと落ちてきて、大事な「何か」を思い出したような気持ちがします。
そして、なんだか元気になった。ホントに。
ハートを開く強力な力があるんですね、きっと。
そうやって、生きる姿そのもので幾多の異国の人のハートを開いて、大きなうねりにしていかれたのでしょう。
なお余談ですが、私がこの本を読むことになったのはツイッターのおかげなのです。
佐々井師のお弟子さんであり、本書の編者を勤められた僧侶 @nagabodhiさんの「つぶやき」から、佐々井師のドキュメンタリー番組がこの夏放送されることを知り、見ることができたのがきっかけでした。
初めて知ったインド仏教の現実、そして佐々井師の佇まいと気迫に参りました。
そしてこの2010年10月、めでたく本書が発刊されたわけです。
ツイッターのご縁の力。ありがたいものです。
2015年追記:
Facebookページ 佐々井秀嶺資料室