音楽家人生の挫折
今から15年前、2007年。
明らかに「挫折」だった。
約20年間続けてきた、音楽家としての私のアイデンティティは、この時ついにポッキリと折れたのだと思う。
5年間にわたって大切に育ててきた「PRISMIX(プリズミクス)」という8人編成のユニットで、初のオリジナルアルバムとして録音したCD。
とってもとっても想いをかけて
5年間分の想いをかけて
やっとCD制作の機会に恵まれて
たくさんの人手と手間をかけて録音して
完成!さあ発売へ!
というそのタイミングで
メンバーからストップがかかった。
「こんな音じゃ表に出せない」
「発売はやめるべきだと思う」
当時の私は、今よりずっと弱気で自信がなくて、軸が弱い人間だった。
バンドリーダーとしてプロデューサーとして、リーダーシップを発揮する立場にも関わらず、
メンバーの言うことを全部受け入れて聞くことしかできない、言われたら自分の方が悪いと思って反省ばかりしているような、脆い「ガラスのメンタル」のリーダーであった。
その音源が、本当にそれほどひどいものなのか、私にはわからなかった。
というか「どこがそこまでひどいのかわからない」というのが本当のところだったのかもしれない。
けれど、ひどいということがわからないほど、自分の耳は、感覚は、どこかズレているのかもしれないと思った。
そんなメンバーの言うことをNO!と押し返す力も、それを語って説得する胆力も、私にはなかった。
「発売はやめるべきだと思う」
そんなふうに言われてショックだったけれど、私は思った。
そうか。
そう言うなら、そうなのかもしれない。
ここはメンバーの意向に従うことが、良いことなのかもしれない。
それを引き受けるのが、最善の判断かもしれない。
わかった。
発売を断念した。
全8曲入りのその音源は、当初予定されていた内輪用ノベルティのためのわずかな部数をプレスしただけで、一般発売はしないまま永遠に「お蔵」になった。
楽しみにしていてくれたファンの方から、「個人的にでもいいからちょっとだけ聞かせてくれないか」と言われたが、キッパリお断りした。
「こんな音源を外に出すわけにはいかない」と、私はメンバーに言われたことをそのまま信じていたからだ。
それがこのグループに対する誠実さだと思っていたからだ。
燃え尽きの始まり
それが、2007年3月。
以降私は、自分が音楽をやる自信も、情熱も、気力も失っていった。
自分の音楽家としての足りなさばかりが、圧倒的に目の前に聳え立った。
まだまだ勉強が足りない。
知識が足りない、経験が足りない。
あれもできてない、これもわかっていない。
もっと研究しなくちゃ、もっと能力つけなくちゃ、もっと最新の知識を揃えなくちゃ・・・・
そんな思いに追い立てられて頑張ろうとするけれど、力が入らない。
もうがんばれない。
でもやらなきゃいけない。
もう一度、立ち上がらなければいけない。
それが燃え尽きの始まりだった。
さらに2年、3年・・・
私はすっかり音楽を聴くのもやるのも関わるのも嫌になって、音楽を避けるようになった。
そんな精神状態でありながら、来る仕事は受けていたので、それらはいつも後味の悪い仕事になった。
ジタバタしながら、何かを模索し続けていた。
人生のシフトへ
今なら言える。
その時期が私にとって、人生転換の大きなきっかけだったのだと。
「音楽家・私」が一度崩れたからこそ、「人間・私」に直接向き合うことになる貴重な時期だったのだと。
だからこそ、心の謎・人生の謎を解いて、幼少期から抱え続けていた自己否定の苦しみから脱出する道へとシフトすることができたのだと。
ジタバタしながら2010年の後半には次の方向性を見つけ、そこから私は心理分野に人生の舵を切った。
心理カウンセラー/コンサルタント/講師としての今、これが自分の天性にたいへん合った仕事であると確信できている。
音楽家であることが、私の人生の最終地点ではなかったようだ。
そうではない形で、私はこの人生、この地球で、やることがあったようだ。
今はそんな感覚がある。
だから、あの「発売中止事件」は私の人生シフトのきっかけであり、人生そのものから「次」を呼びかけれられる「ウェイクアップ・コール」であった。
その後、心理職であり音楽家であるという全く新しい立ち位置によって、新たにソロCDを作ったり、いろいろなライブイベントをやったりするようになった。
新たなスタンスで、再び音楽にたずさわれるようになった。
めでたし、めでたし。
とはいえ、しかし・・・・
終わっていない2007年
私の中の深いところで、「あの2007年」が止まったままずーっと疼いていることを、かすかにいつも感じていた。
うっすらと感じたまま時は過ぎて、あっという間に15年。
そして今年、2022年。
私の中で、ついにスイッチが入った。
「15年の封印」を解く時が、やってきた。
そんなタイミングで今、この長い物語を過去から振り返って書いておきたいと思った。
これまでほとんど表に出さなかったこの話を書こうと思ったということは、「時」が来たのだ。
私自身の心の整理のためにも、ここからあらためてPRISMIXのことを書いてみたいと思う。