音楽療法科の大学生になったので、
勉強中の音楽療法のことについても書いてみたい、と始めたシリーズ。
前回書いた「音楽療法って何するの?」では、大人数で皆の知っている歌を
歌ったりする音楽療法が日本では主流のようです、ということを書きました。
さて、そうではない例として特徴的な他の方法。
それは少人数グループや一対一の個人で行う「即興」という方法です。
代表的な一つに「ノードフ・ロビンズ音楽療法」が挙げられるでしょう。
作曲家のポール・ノードフと療育家のクライヴ・ロビンズによって創始されました。
発達障がい児や自閉症児などに対して、セラピスト(音楽療法家)が
その子の特徴と、反応の様子を見極めながら、ピアノで自在に即興演奏して
その子と音楽的な関わりを結んでいきます。
また、子どもに呼びかけるような歌を即興で歌ったりもします。
楽器(太鼓やベル、その他)のできる子には楽器を持たせて。
あるいは声や歌で。
それができない子は、ただ泣き叫ぶ声や、手足を揺すぶる動作でさえ、
セラピストはそれにテンポや調子を合わせたり、伴奏をつけたりして
子どもの表現を受け止めて、音楽で会話します。
いわば、ジャズでいうところの「フリー・インプロヴィゼイション」ですね。
そんなセッションを重ねるうちに、不思議と子どもが変わっていくのです。
外部に全く関心を示さなかった子が、他人の存在を受け入れるようになったり、
注意散漫で混乱気味の子が、すばらしい集中力を発揮して合奏するようになったり。
何の音楽的教育を受けたことがない障がい児でも
音楽的センスの優れた子は、セラピストの演奏を敏感に感じ取って
驚くべき応答をするようになることがあります。
そして、そのように音楽セッションの中で成長した子ども達は、
それぞれの家庭や施設でも、集中力や協調性などが目に見えて向上し、
本人にとっても家族にとっても、より幸せな生活を送れるようになっている・・・。
そんな事例が、多々あるようです。
「ノードフ・ロビンズ音楽療法」は、1950年代に創始され、
現在ではアメリカ、イギリス、オーストラリア、南アフリカなどにセンターが
設立されて、日本人でも留学経験者が多数おられるようです。
ポール・ノードフ氏は既に死去されていますが、
現在もお元気なクライヴ・ロビンズ氏の本
「音楽する人間」 生野里花・訳 春秋社・刊 にはDVD資料が付いていて、
ポール・ノードフ氏がピアノを弾きながら子どもと感動的な合奏を繰り広げている
貴重な映像が収録されています。
何より、お二人の根底にある深い人間理解と信頼が、大きな土台となって
そのような結果を導き出していることも、忘れてはならないでしょう。
音楽で相手を受け止め、会話する。
その時の相手に一番ふさわしい音と形を、
自分の引き出しの中から自在に差し出していく。
まさに音楽家だからこそできるそんな「即興的アプローチ」は、
私にとって、魅力的に光る
惹かれてやまない世界です。