今日は何かモノを作る方向けのトピックです。
私はこれまで作編曲家として、音楽学校で生徒さんに作曲を教えてきた経験もあるので、とりあえず作曲という分野で語りますが、作曲に限らず、広い意味でモノ作り、創造、つまりクリエイションに共通する点もあるだろうと思います。
そんなつもりで読んでみてくださいね。
出てきたものがかわいくなるから
さて、作曲しようとする時に、技術・知識の面ではないところで大事なポイントがあります。
それは何かというと「自己検討機能」ともいうべきもの。
自分が作ったものを自分で検討する力。
早い話が「捨てる勇気」です。
作曲をはじめたばかりの方は、どうしても
何かメロディーがでてきたら、
「でてきた!浮かんだ!」
とそのまま採用してしまうんですね。
それが本当にいいのかイマイチなのか、検討するというプロセスを意外と吹っ飛ばしてOKにしてしまう傾向が見受けられます。
「だって、こんなのが出てきたんだもの。」
自分から出てきたものがかわいくなってしまう、うん、それもわかります。
無から有が現れたようなところがうれしくて、これこそインスピレーション!とか思ったりもしますね。
しかし、大事なことは、それがホントにいいメロディーなのか、ということであり
それが、作ろうと思っている曲のイメージにちゃんとあったものなのか、ということであり
そもそも、自分はホントにそのメロディーに納得できるのか、ということです。
ここんところを、ちゃんと冷静に検討できるようにならなきゃいけません。
必要なのは「自己検討機能」と捨てる勇気
とりあえず、出てきた。OK。
で、それ、ほんとにいいメロディーなの?
ほんとにこれでいいの?
自分的にピッタリきてるの?
ベストな姿が100だとしたら、今これ何%ぐらいクリアーしてるの?
という「自己検討機能」が必要なのです。
それは、いくら出てきたものがカワイイといっても、センスある人ならば、実はウスウスわかるものです。
「や、実はここはイマイチと感じてる」って。
感じてることをちゃんと認める力が必要です。
ただ注意したいのは、ここで思考、つまりアタマで考え出さないこと。
アタマがグルグルしちゃうと迷宮に入っちゃう。
思考はかえって本当のことを撹乱したりもします。
何を頼るかといったら、「感覚・感性」ですね。
ということは、自分の中のどれが思考で、どれが感性なのか、これも見分ける必要があります。
ものすごく内的な観察力が問われてくるんです。
ポイントは「これを人が見たらどう思うか」と考えるのではなくて
あくまでも「これを自分がどう感じるか」。
自分は、こう感じる、そういう気がする。
そこを信じることです。
その自分の感性が「なんか、これ違うかなー」と感じたなら、
かわいい、もったいない、だって、せっかく・・・とか言ってないで
「違う。これじゃない。」とバッサリ捨てること。
捨てる勇気。潔さ。
これも大事です。
まだ探せてない、まだ満ちてないというだけ
だけどね、
捨てたらもう終わりなんじゃありません。
まだまだ探し足りない、というだけです。
まだ100%に満ちていない、ということ。
だったら、50を60に、60を70に・・・・
どんどん近づけていけばいいのです。
ピンとくるところとイマイチのところをちゃんと見分けて、いいところは生かし、違うところはもっと探せばいいのです。
どうもね、多くの人がイメージする「作曲」って、
いきなりインスピレーションが100%完全体で来て、その場で「できたー!これだーっ!」みたいにできあがる、とでも思ってます? と聞きたくなることがあります(笑)
いやいや、違うから。
もちろん、モーツァルトみたいな天才はそうかもしれない。
天才じゃなくても、そういう瞬間を経験することはあります。
しかしそれは、それ以前に多くの音楽的経験と鍛錬の蓄積があって、その中で、「インスピレーションが降りる回路」というものを磨いてきた人にこそ、そういう瞬間が訪れるのだと思います。
普通の人や、作曲の初心者ならば、いきなり100%はありえないと思っていいでしょう。
何度も何度も
「これは違う、まだこれじゃない、もっと何か」
「ここはいいぞ、この部分はピンときてる、でもここは違うな」
そういう自己検討をしながら
そうやって、インスピレーションのアンテナに
エネルギーを流し続けながら
創造の源泉にアクセスし続けることです。
そういうプロセスが、必要なんだと思います。
実は、ベートーベンは、そういうタイプの作曲家だったと言われています。
メモやスケッチを何度も練り直して、検討し尽くして、磨き尽くして、彫って、削って、あのような曲を構築したのだと言われています。
あの、第九のシンプルなメロディーも、そうやって磨き抜かれてできたものだそうです。
ベートーベンさえ、そうなんだから。
私たちみたいな凡人がそんな、一度くらいチャチャッと思いついたもので、完璧なものができるわけがないじゃんね。
信じていいモノを見分ける
そして、もしも
一度のインスピレーションでガガーッときたものが、ホントに本物ならば。
その時は、そのメロディーに並々ならぬ力がこもっているのがわかるでしょう。
「これ、ヤバイ」というような。
自分の力を超えた何かが籠ったのがわかるような。
それこそ、信じていいモノです。
そういう、信じていいモノと捨てるべきモノを、ちゃんと感じ取る力。
これこそが一番大切なことであり、磨くべきことです。
それがあれば、どうしたらいいのかは、自分の内側の感覚が教えてくれるようになるでしょう。
というわけで
自分の中で、ちゃんと見分けをつける力をつけよう。
そのプロセスをめんどくさがらないで。
そして、見分けをつけたら
捨てるべきものは、勇気を持って捨てよう。
それが今日の結論です。
☆旧ブログ「大人の音楽レッスン」より
2014年4月に書いた記事を加筆修正しました。