久しぶりに平日の午後にポカッと時間ができて、お茶の水近辺に降り立った。
お茶の水は、芸大受験のために通っていた作曲の先生のレッスン室があって、
高校2年〜浪人時代、毎週土曜日にレッスンに通っていた場所。
当時、神奈川県鎌倉市の高校生だった私にとって、
「週1度東京へ行く」っていうのは、
ちょっぴり大人っぽくてワクワクするような体験だった。
レッスンが終わって真っ直ぐ家に帰るのはもったいない!
必ずその後遊んでくるのがお約束。
と言っても、内向的な芸術系志望の少女のお遊びとは、
本、音楽、美術、映画・・・なので、ハジけたことは何もないのだが。
時には繁華街の映画館へ足を伸ばしたりしたけれど、
なぜかあの頃の思い出はお茶の水なのだ。
小難しい人文系の本や、フランスや日本の19世紀末文学、画集などを探しに
駿河台下の古本街へ。
その辺の本屋ではみつからない絶版本などを探し出して、自分なりに悦に入っていた。
買わなくても棚を見ているだけで楽しかった。
新品の本が欲しいときは、坂の途中にある明治大学の生協へ。
ここは明大の学生でなくても1割引で本が買えた(ホントによかったのか??)。
ディスクユニオンで輸入盤や中古盤を漁った。
楽器屋はあまり行かなかった。大学に入る前はまだまだシンセや機材にも
縁がなかったから、楽器屋には用がなかったんだと思う。
作曲用の五線紙は銀座に行かないと売っていなかった。
「ジロー」はその昔ちょっとしゃれた洋菓子店だった頃の面影がわずかに残っていた。
少し離れた所にあるカジュアルな姉妹店「カフェテリア・ジロー」は、
学生がごはんを食べるのに最適だった。
地下に階段を降りていく、ジャズクラブ「NARU」。
当時、夜にライブをやっていたのかどうか定かでないけれど、
昼間は、私にとってちょっと大人な「落ち着く喫茶店」だった。
レモン画翠という画材店がやっているカフェ。
外観も内装もアールヌーヴォー風で、なんてアートでオシャレなんだと思って
入るのにもちょっと気合いが入った。
少し先にはアテネフランセ、ツタの絡まる文化学院、山の上ホテル・・・
あの年代の自分にとっては、
この街は「ちょっとアートで知的なかんじ」の街であり、
その空気を感じて漂うのが「ちょっと背伸びしたお楽しみ」だったなあ・・・・
なんてことを思い出しながら、夏至の快晴の空の下、
駿河台下から御茶ノ水駅に向かって、ゆっくり坂を上ってみた。
別に思い出のお店ではなく普通のエクセルシオールカフェで、
三省堂で買った本をしばらく読んだ。
4月から学校に通うようになったため毎日多忙で、
こんな風にカフェでゆったり本を読むなどということがなかった。
久しぶりにやってみると、
これくらいのことでも十分ゆったりした楽しさを味わえるもので、
こんな時間を少しでも過ごせるのは、なかなか幸せなことだと知った。
昔この街で、こんな風に過ごしていた自分を
ちょっと重ねて思いながら
気持ちのよい夏至の午後だった。